私とフランス人の夫は現在起業しており、スイスで起業ビザを申請しました。手続きの流れが想像以上に不思議で驚くことが多かったため、今後どなたかの参考になればと思い、私たちの体験をまとめています。
なお、スイスではカントン(地方)によって手続きが異なる場合がありますので、必ずご自身がお住まいのカントンに確認するようにしてください。あくまでこれは、私たちの一例としてご紹介するものですので、その点をご理解いただければと思います。家探しからビザまでは3ヶ月半ほどで終了しました。
私たちについて
私は日本人、夫はフランス人です。フランスはEU加盟国ですが、スイスはEU非加盟国のため、フランス人であってもスイスでのビザが必要です。
もしスイスで雇用されて働く場合であれば、ビザの取得は比較的簡単で、移民局に雇用契約書を提出するだけで基本的には許可が下ります。
しかし、私たちの場合は起業しており、雇用されているわけではないため、少し事情が異なります。まず夫が起業ビザを申請・取得することが必要でした。
移民局の方々に相談したところ、「ご主人の起業ビザが下りたら、配偶者ビザが自動的に発行されるので、まずは起業ビザと配偶者ビザを申請し、その後、奥さんは起業の手続きを行った方がスムーズです」とのことでした。2人ともが起業ビザを申請すると手続きが複雑になるため、この方法が最も簡単だというアドバイスをいただきました。
移住にあたり下調べ
スイスへの移住を考えたとき、まず最初に調べるのはやはりビザの申請方法ですよね。しかし、起業ビザに関する情報は驚くほど少なく、私たちは必要な情報を得るために、いろいろな機関に直接問い合わせをする必要がありました。
さらに、手続きの順番が非常にわかりづらく、そのたびに「これで合ってるのかな…?」と不安になることが多かったです。
起業ビザを申請するというのは、「自分の仕事(ビジネス)をスイスに認めてもらう手続き」と「ビザそのものの申請」、この2つがセットになっているということです。これは多くの方が予想されることだと思いますが、実際にやってみると、手続きの順番や要件が本当に不思議で、何度も戸惑いました。
私の中では、「ビザ申請 → 起業 → 家探し → 住民登録」という流れを想像していたのですが、現実はまったく違っていて、とにかくびっくりでした。
① まずは家を借りろ!
移民局(ビザ)に連絡すると、まずは会社をスイスで認めてもらうようにと言われ。
社会保障基金機関(起業)に連絡すると、まずは住所がないと進めないと言われ。
ちょっと待って!ビザも仕事もない状態でどうやって家を借りろと?!とびっくり仰天だったのが2024年年末。年末はひたすらスイスの不動産に、フランスでの起業歴や年収などを送り、「ビザはないけれど、これから起業してビザを申請します」というなんとも怪しいメッセージを送り続けました。当然のことながら、ほとんどの不動産からはお断りの返事。そりゃそうですよね。ビザも仕事もない人が、どうやってスイスで家を借りるんだって話です。
ところが奇跡的に、とても優しい不動産業者の方と出会い、家を借りることができました。こうして、第一関門である「住居の確保」は、無事クリア!
ちなみに、スイスで家を借りるには家の保険加入が必須です。ですが、この保険については、ビザがなくても問題なく契約することができました。また、SIMカードやWi-Fi契約も、家の住所さえあればスムーズに進みました。
しかし、ここで2つの問題が発生!
【問題その1】アパートの敷金
敷金は不動産に直接支払うのではなく、専門の保証会社を通じて支払う仕組みです。スイス全体がこうなのかはわかりませんが、私たちの不動産はこのシステムを導入していました。この会社に年間100フランほどを支払うことで、敷金がカバーされます(この100フランは返金されませんが、家賃数ヶ月分の敷金を支払う代わりとなります)。
しかし、ビザがないと保険に登録できない!いくつか保険会社があるのですが、どこもビザを提出するように言われ、不動産に相談しました。そこで不動産が「いったん敷金全額を不動産に直接払い、ビザが取れたら全額返金するので、保証会社に加入したらいい」と提案してくれました。おかげで大きな問題にならず、無事に契約が完了しました。
【問題その2】銀行口座
これはさすがに、ビザがないと口座開設は不可能。でも、ここで登場した救世主が WISEです。家賃はWISEを通じて振り込むことができたので、本当に助かりました!ビザが取れるまでの間、WISEがあったおかげで金銭のやり取りがスムーズにでき、ありがたみをひしひしと感じました。Revolutなども持っているのですが、なぜかスイスフランは送れませんとのこと。なぜ。
② ビザの前に仕事を承認してもらえ!
「ビザもないのに、スイスで起業なんてできるの?」と、最初は半信半疑でしたが…どうやら住居があれば、起業の手続きが進められるようです。まず起業をしなければビザは降りないというわけで、起業の手続きを始めることになりました。
スイスでの起業は、フランスとは全く違います。フランスは、オンラインで登録するだけで誰でも簡単に起業できますが、スイスではそうはいきません。
スイスでは、外国人が起業するには条件があり、場合によっては却下される可能性もあるのです。(カントンによって判断が異なる場合もあるので要注意。もしかすると、スイス人なら簡単なのかもしれません。)フランスではオンラインで登録するだけなので誰でも起業できるのですが、スイスでは誰でも起業できるわけではないというのが一番の違いでした。
まずは、以下のような書類をしっかり準備して提出しました:
-
ビジネスプラン
-
去年の年収と、今後の見込み
-
クライアントへのサービス内容
-
起業の目的や具体的な業務内容
ここまでは順調。ところが2週間後、届いたメールに思わず目を疑いました。
「現在お住まいの地域に住民登録はお済みですか?住民票を提出してください。」
……ちょっと待って待って待って!!!ビザが降りていないのに、住民登録ができるの!?そもそもビザなしで住民票って出るの!?
あまりに不可解だったので、直接「Contrôle des habitants(市民管理局)」へ向かうことにしました。
③ ビザなしで住民届けを出す
あまりに不思議な流れだったので、「本当に住民登録できるの?」と半信半疑のまま、街の Contrôle des habitants(市民管理局) へ。
すると、驚いたことに…
「できますよ!」
とのこと!なんと、私たちのような状態(=ビザなし、でも家はある)でも、住民登録はOKなんだそうです。
結果、夫も私も、無事に住民登録を完了できました。
スタッフの方がとてもとても親切で、たくさんの質問にも丁寧に答えてくれました。「さすがスイス!」と感動していたら、なぜかウェルカムドリンク…ではなく、ウェルカム板チョコをプレゼントされました(笑)!
チョコには「ようこそ〇〇市へ!」と書かれていて、そのほかにも新しい住人向けの無料サービスやチケットがたくさん配られているようで、私たちもいくつかいただきました。アイスホッケーの試合が無料で観られるチケットなど!
ちょっとびっくり、ほっこりしながらも、無事にビザなしでの住民届けが完了。住民票も、お願いしたらすぐに発行してもらえました。
住民登録に必要だった書類
-
パスポート(2人分)
-
フランスの家族手帳(Livret de famille)
-
アパートの契約書
④ なぜか年金登録通知が届く
数日後——。
ポストに見慣れない書類が届きました。
開けてみると、なんと 老齢・遺族年金(AHV/AVS) に関する書類が!
え?どういうこと?
なんで健康保険が届いたの…??
たぶん、ここまでの流れを見て「え、順番どうなってるの?」と感じた方、多いと思います。はい、私たちも全く同じ気持ちでした(笑)
実はこの書類、スイスの健康保険・年金制度(AVS)への加入通知。住民届けを出しただけで、ビザもまだ降りてないし、起業も進行中の状態だったのに、数日後に届きました。
さすがに届いたのは夫の分だけで、私のはまだ何も来ていません。おそらく、「夫が主申請者(=起業ビザ)で、私はその配偶者」という扱いになっていたためだと思われます。
まさかの年金番号が先に来るという事態に、ただただ驚きました。順番の謎、まだまだ続きます…。
⑤ ようやくビザの手続きへ
起業許可書が届いたので、次はいよいよビザの本申請です。
起業許可書を持って、再びContrôle des habitants(市民管理局)へ。カントンの入国管理局に行かなくてもビザ申請ができるとのこと!街の市役所のようなところから住民届けもビザ申請ができるのはありがたい。
小さい街ですが、このシステムのおかげで楽に手続きができてよかったです。
提出書類
-
起業許可書
-
念のため、ビジネスプランも一緒に提出
ところが、申請から1週間後…
「会社の登録証を提出してください」
という手紙が届きました。Caisses cantonales de compensation(社会保障基金機関) から届いていた許可書一式を提出したのですが、それでは不十分だったようです。
改めて社会保障基金機関に連絡したところ、すぐに正式な証明書がメールで届きました。そのままプリントして、またまた市民管理局へ。
⑥ 書類が足りないのに呼び出し通知が来た
書類が足りないと言われていたにも関わらず、Service des migrations(移民局)から「ビザ申請の呼び出し」が届き、またもびっくり。呼び出しの日程はオンラインで変更できるので、夫と私の呼び出し日を同じ日に調整しました。
呼び出しの内容
私の書類には、「写真、指紋登録、サイン」が必要とのこと。
夫はEU圏だからか、指紋登録はないそうです。
⑦ ビザの支払いが届く
それからおよそ3日後、再び Service des migrations(移民局) から手紙が届きました。今度はビザ手続きの支払い通知でした。夫は指紋登録がないからか、私の半額程度でした。足りない書類を再提出していた状態だったのですが、おそらく問題なくできていたようです。(移民局で当日確認すると問題なかったようです)

自分の経験、他の方のブログをみた限り、料金は140〜170フラン程度のようです。フランスでは240ユーロほどだったので、かなり安くなって嬉しい。
⑧ 移民局へ行く
指紋手続きをしに移民局に出向きました。あまりの清潔さときれいさに驚きました。手続きはなんと5分で終わり、ビザに関する質問にもとても親切に対応していただきました。
手続きが、ようやく全て完了!移民局の方々もとても丁寧に対応してくださり、ビザ手続きが完全に終了したとのこと。
数日後にはビザが届くそうです。行政が親切で、対応もニコニコしていると、本当に気持ちが良いですね。フランスのえげつない対応に慣れてしまっていたため、まるで日本に帰国したような安心感を感じました。
⑨ ビザを取りに行く
Contrôle des habitants(市民管理局)からビザが届いているとメールが来たためパスポートを持って取りに行くと、夫婦共に5年ビザをもらうことができました。
終わりに
ややこしい手続きの数々でしたが、不動産と行政のしっかりした対応のおかげで、毎回安心して進めることができました。おかげさまで、 3ヶ月半という短期間で、家探し、引っ越し、ビザ手続き、そして起業が無事に完了しました。